神戸大学海洋底探査センター

プロジェクトProject

探査プロジェクト

プロジェクト「ブルーネス」

海底火山活動や津波をリアルタイムで監視



ブルーネス、それは横溝正史ミステリ大賞作家「伊与原新」の最新作。はみ出し者の地震学者たちが、究極の津波予測に挑む物語。この中で主人公たちが多くの困難を乗り越えて作り上げたのが、波力エネルギーで自律航行するプラットフォーム「ウミツバメ」。海底に設置したベ クトル津波計が検知した津波データをリアルタイムで地上へ送る。物語では、この「津波監視 システム」が海底火山の活動で発生した大津波を早期かつ正確に検知し、多くの人命を救う。 伊与原氏も記すように、このシステムにはモデルが存在する。それこそが、KOBECで開発と運用を進めている「海底火山・津波監視システム」である。このシステムでは、ウミツバメは 「ウェーブグライダー」と呼んでいる。現在は、2013年以降噴火を続ける西之島で監視を行なっているが、今後は鬼界カルデラ火山や他の海底火山にも展開を予定している。このプロジェクトを、伊与原氏の作品のタイトルを拝借して「ブルーネスプロジェクト」と呼ぶ。



現在の津波監視システムの弱点


南海トラフ巨大地震が切迫度を増し、あの東北地方太平洋沖超巨大地震による東日本大震災が発生したことを受けて、わが国では海底地震津波観測網が整備されつつある。海溝型地震発生域の海底に、地震計、水圧計やその他の観測装置を多点配置し、これらを光ファイバーケーブルで連結して観測データを陸上局へ集約するものだ。これらが稼働すれば、従来の手法に比べて、はるかに高精度に、しかも20分以上も早く津波予測を出すことができる。しかしこの国家的事業の最大の難点は、ケーブルの設置などに莫大な費用と時間がかかり、どこで起こるか予測が難しい海底火山の噴火やそれに伴う山体崩壊、さらには津波の発生に臨機応変に対応できない。
また津波を捉えるシステムとして世界で広く使われているのが、米国 NOAA(海洋大気庁)が開発したDART(海底津波計)である。DARTは我が国にも導入され、リアルタイム津波情報への活用が期待されているが、装置が大型であるために、投錨・設置や保守を行うには装備の充実した比較的大型の船舶が必要となる。したがって海底火山の活動の活発化に即対応して機動的に監視を開始することが難しい。2018年12月22日にスンダ海峡のクラカタウ火山が噴火、山体崩壊が発生し海へ突入した岩石や土砂が大津波を引き起こし400人以上が犠牲となった。しかし遥か離れた海溝沿いに配置された DARTに津波が検知されたのは、海峡周辺を津波が襲った後だった。